アマチュアな日々

原付旅をメインに、本や映画、散歩にゲームなど、その時々の出来事を気ままに記す、という趣向のブログ。やめたくなったら即やめます。

aikoの詞についての過激な賞賛と身勝手な解釈。【前篇】

雨が降って外に出かけられない日々が続くので、もてあましたヒマを発散するために、今回は俺がこの世でもっとも敬愛するシンガーソングライター aikoの話をしたいと思います。ただしaikoの歌でも曲でもなく、今回は詞についての話をメインにします。

なので、正確には「AIKO」の話、ということになりますか。

というのもaikoは作詞作曲に名前をクレジットするときは決まって大文字で表記するため、詞について語ろうとするならば、これはaikoではなくAIKOの作詞について語ることになるので。まあそのあたりはややこしいので、以降の文章ではおなじみのaiko表記としますが。

 

そもそもの出会いはおよそ10年前。

 

高校2年生の夏に、テレビから流れてきたファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル リング・オブ・フェイトのCMに使われていた『星のない世界』に胸を打たれて、翌日に近所のCDショップに走ってアルバムを購入したのがはじまりで、以来、どっぷりハマってしまいました。

アルバイトをする。給料が入る。毎月二枚ずつ過去にさかのぼってアルバムを買う。これの繰り返しで過ぎていった高校生活の数か月。 iPodに表示される再生数ランキングがすべてaikoで埋まっていたのを思い出します。ファンクラブにも入っていました。

湘南で開催される野外ライブに出かけて熱中症でぶっ倒れたのもいまとなっては良い思い出、とまでは言いませんが(なぜならそのおかげでライブを見逃し、同行してくれていた友人への罪悪感からCDを丸々全部あげてしまったから)、まあ苦笑い話くらいにはなっています。

今年行われたライブ「aiko Live Tour Love Like Pop vol.21」にも参戦しましたが、やはり色あせない。

最高でした。本当に。

そんな、いつまでもすばらしい曲を作り続ける彼女の詞を、好き勝手に褒め殺そうというのが当記事の趣旨です。

 

これにあたってまず、俺が日頃からフラストレーションを感じている、aikoの楽曲についての安易安直な意見に対し、是非とも言っておきたいことを書きます。

つまるところ、この場を借りてのストレス発散じゃーい!くらえええ!オラオラオラァ!

 

  1. 恋愛の曲ばかり書いているという批判は正しく批判になりえないということ。なぜなら職人というものはしばしばひとつのものを金床で叩き続けることによって形を作り腕を磨いていくものだし、このストイックな信念によって大いなる仕事を成し遂げるものだから。
  2. そもそも恋愛は人類に普遍のものであるということ。これをちいさな箱にカテゴライズして人生から引き離し、あたかもジャンルもののように指摘するのはいかがなものかということ。
  3. aikoが描いているのは、ままごとじみた恋愛の楽しさよりもずっと、むしろ時間や肉体存在などの過ぎ去るべき定めにあるモノに対する不安や寂しさであって、彼女は勝手知らず他人に縋るピンク色の女の子なんかではなく、ある意味で冷徹な知性を備えるタフな精神を持った女性だということ。そして同時に、残酷なほどに、極めて無邪気だということ。でなければこれだけの長いキャリアを築くことなどできない。これは聖なる属性である。
  4. つまり、彼女は天才だということ。
  5. もし描かれた恋愛にまつわる物語のなかから表層的な惚れた腫れたの物語しか抽出できないのだとしたら、まずその厳しい批評の眼を自分自身の読解力や想像力に向けてみてはいかがでしょうかということ。
  6. 上記、そして下記すべての文章はあくまで個人的な意見だということ。

 

です!お目汚し失礼!

 

 

 

さて、スッキリしたので本筋に参ります。

 

以下に掲載する詞はすべて、aikoの楽曲から引用したフレーズ。タイトルのあいうえお順に上から下へ。俺のiPhoneのメモに写してあったものをそっくりそのままコピペしたものです。

太字=引用したフレーズ。()内=曲のタイトル。☆以降=俺の勝手な感想。

 

 

 

 

aikoの詩。(初回限定仕様盤 4CD+DVD)

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ピアスの裏側に隠した熱がこぼれ落ちて

指をつたい戻れないと泣いてる

(4秒)

☆〈マジかよ美しすぎる。こんなの文学じゃん。上から下の感覚はaikoの詞に顕著。覆水盆に返らずの音楽的叙情。一過性の、二度と戻れないことに対する過剰ともとれる心配や後悔。去っていく時間への切実さが滲む天才。〉

 

 


目の前に広がる今だけの世界ここはあなたとあたしの幸せの中だろう

ぼやけた向こうに見える顔

泣いてしまうなんて勿体ない泣いてしまうなんて勿体ない

今夜は眠れないかもしれないずっと離れたくないからね

夢でも闇でも一緒にいたいんだけどだめだったらどうすればいいの

見透かされてる心の果てはどんな匂いがするのだろう?

知らない場所も解ってるのでしょう

目の前に広がる今だけの世界

あなたのその瞳がまさに生きている証だろう

優しく触った頬に赤

泣いてしまうなんて勿体ない泣いてしまうなんて勿体ない

(Aka)

☆〈世界がふたりだけの幸せのなかならもっと幸福そうにしてほしい。泣いてしまうなんて、とか、眠れなかったり、とか、夢でも闇でも、とか、親の手を握りしめて心配そうな表情で顔を見上げる女の子みたいで、若干ネグレクトを感じさせたりして。積み重ねる表現が丁寧すぎて、こっちが泣きそうになる。幸せのなか→ぼやけた向かうに見える顔→泣いてしまうなんて勿体ない。涙の意味合い。笑い泣き?ドラマチック。視覚的。そしてつねに共感覚的。見透かされてる心の果て⇆匂い。天才。〉

Aka

Aka

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あなたが泣いている事

今は解らないふりしてずっと話そう

水平線が見えた 優しい世界の始まり

誰も今のあなたを責めたり出来ない

(beat)

☆〈水平線が見える=夜明け。『あなたが泣いている事 今は解らないふりしてずっと話そう』って、優しすぎませんか?なだめるとか、笑かすとか、そうじゃなくて、解らないふりをするって。今は/ずっと。このふたつの時間を表す言葉もポイントになって、本当に優しい。ゆるく柔く伸びていく会話が切り口あざやかな水平線と交わる瞬間の美しさ。曲調の明るさと詞の暗さがあべこべになるのがaikoの曲の特徴。トータルで天才。〉

beat

beat

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3つめ4つめと数えた星の涙に願う

あなたの傍にずっと居たい

まだ知らない事だらけの背中と背中を合わせて聞こえてきた音

壊れても仕方ない程に熱い

(KissHug)

☆〈aikoの好みの表現 星。流星を流星と言わないところがイキ。願う星が涙であることは、流れる傍のだれかの横顔を匂わせる。願いの対象が傍のあなたであることが意味を増幅させて、遠近感を狂わせるような巧みな表現。『まだ知らない事だらけの背中と背中を合わせて聞こえてきた音』が『壊れても仕方ない程に熱い』というのは、もうね。心臓の高鳴りがこっちまで聞こえてくる。エモすぎ。天才。〉

KissHug

KissHug

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ねぇ 目を見て ねぇ 口見て

雪もミルクも霞む静かでスロウな

真っ白い光に一緒になりたい

(milk)

☆〈雪もミルクも霞む……の部分の口に出したくなる小気味よさは異常。そしてそれらが霞む白い光。静かでスロウな。精神と時の部屋?雪⇒ミルク⇒真っ白い光と、徐々に白の面積がおおきくなってやがて包まれるような、視覚に訴えてくる装置はさすがのaiko。冬の終わり、芽吹く天才。〉

milk

milk

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海をハサミで切ってLove Letter 書こうかな

(Power of Love)

☆〈あなたは天才です。ところで、月が綺麗ですね。Dear aiko様。〉

Power of Love

Power of Love

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あなたにしたキスがもう乾いた

フライパンの流星群

蒸発する水は綺麗

空っぽの頭に響いた

あなたを想う程に弾ける

小さなマイナスは破裂する

(You&Me both)

☆〈フライパンの流星群、蒸発する水は綺麗、破裂する小さなマイナス。常人ならざる発想。奇を衒うだけじゃなく、乾く・蒸発する・響く・弾ける・破裂する、と、か細い糸ですべてが繋がっている感じがするが、絶対意図的。イトだけに。確信犯的天才。〉

You & Me both

You & Me both

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羽根いっぱいのプールで泳いでるような

めちゃくちゃな嬉しい日々

(愛は勝手)

☆〈危うい少女的な感覚を鋭く掬った見事な比喩。羽いっぱいのプール。絵としてはたしかに美しいのだけれど、実際に泳ごうと思ったら無理じゃないか?というね。宇宙を泳ぐように、美と破滅が同居している。引力バリ強、ブラックホール級の天才。〉

愛は勝手

愛は勝手

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この街に二人きりの時間がやって来た

勝手に吹く肌寒い風があたしばかり煽るから

あなたの姿が愛しいのです

思い詰めた涙の道乾かし唄う朝の鳥

死ぬのはやめようと少し前のあたしに告げる

(朝の鳥)

☆〈『勝手に吹く肌寒い風があたしばかり煽る』という、感覚が繊細で過敏な人に特有の発想の転換と被害妄想全開の言い分。『思い詰めた涙の道乾かし唄う朝の鳥』とか、言葉のリズムが気持ちよすぎる。北原白秋顔負けの天才〉

 

 


明日が来ないなんて 思った事が無かった

いつでも初めては痛くて苦しくなるんだね

(明日の歌)

☆〈いろいろなことを想像させる『初めて』。『明日が来ないなんて 思った事が無かった』と、言われてようやくハッとさせられるような当たり前は、いつでも芸術家が見つけてくれる。いちもにもなく天才アーティストの仕事。〉


aiko-『明日の歌』music video

 

 


インクのなくなりそうなペンで話しながらぐるぐる書いた

何か解らない模様もあたしの今の模様だ

(あたしの向こう)

☆〈インクがなくなりそうなところが肝。話しながら書くという落ち着きのない行動が乱れた心情をそのまま表す。まさしく渦を巻く模様のあたし。巻きこまれて溺れてしまいたいくらいの天才。〉


aiko-『あたしの向こう』music video

とびきり可愛いPV。すぐコンバース買った。

間奏?というのだろうか。PV3:27~あたりに流れるピアノの部分が最高。流れ出すと勝手に指が動く。まったく弾けないけど。

 

 


走る心に濡れた歩道 また匂いは変わる

いつもいつも

二度とは来ない今を生きてく

(あの子の夢)

☆〈『走る心に濡れた歩道』。ひたむきに闘う人の気持ちを描くためにはこれだけの言葉があれば十分という実例。もちろん口に出しても気持ちいいリズムは健在。詩と音楽の女神ミューズもびっくりの才能。つまり神話的天才。〉

あの子の夢

あの子の夢

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暗闇が怖いなんて気付かなかった

(あられ)

☆〈前述の『明日の歌』に近い感覚。あたしには暗闇以上に盲目にさせるなにかがあった。けれども……的な。ライトが消えたあとの携帯電話の画面ともとれたり。いたずら者のaikoらしい天才。〉

あられ

あられ

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何億光年向こうの星も肩に付いた小さなホコリも

すぐに見つけてあげるよこの目は少し自慢なんだ

〰〰〰

あたしは何を落としてきたの? 思い出せない記憶のクリップ

挟んだ瞬間痛かったのは言う間でもないこのハート

(アンドロメダ)

☆〈肩についたホコリと何億光年むこうの星を並列にするあたりとか。記憶のクリップに挟まれて痛むハートとか。ため息をつくばかりの天才的文才。そしてご自慢の視力も、サビでは『交差点で君が立っていてももう今は見つけられないかもしれない』とまで落ちていくのだからお見事。まさにストーリーテラー。噛みしめるように高校生のころ何度も繰り返し聴いた曲。これはまさしく俺の曲だ!とか言ってたっけ。アイタタタタ。〉 

アンドロメダ

アンドロメダ

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ベランダのコンクリートに黒い水玉模様

少し雨が降り始めた頭が痛い

だけど空気を入れ換えたい

窓は開けていようか

同じくあたしの心も入れ替えられないかな

(運命)

☆〈空気と同列に語られる心にまとわりつくような真綿に似た重さ軽さ。曇り空で薄暗い午後二時、夜通しの豆電球はつけっぱなし、ワンルームに敷いた布団のうえで寝返りを打ったまま動かず俯せになって三年前にユニクロで買ったTシャツがお腹のうえまでまくり上がってしまっているがそんなことちっとも頓着しない彼女の姿ともみくちゃの薄い掛布団が想起される。携帯がしつこく鳴っているがどこにあるかもわからないしそもそも取るのがめんどくさいからまあいいか。枕元に置いた時計はもうしばらく六時三十七分のままで、飲みかけのレモンティーの紙パックに挿したストローには噛み跡。みたいな。これは完全に俺の妄想。言い換えれば行間を読ませる天才。〉

運命

運命

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時は経ち目をつむっても歩ける程よ

あたしの旅

(えりあし)

☆〈目をつむったまま歩くことの子どもっぽさ。少女趣味。いっぽうで口調は大人。この大人と子どもの二重感覚によって語り手の人物像が歪むからこそ、一緒に歳を重ねてもなお色あせないaikoの二度三度味わって楽しい詞の深みが生み出されているのかも。ひとつの文章のうえでまたたくまに経過する時間。天才の生みの親がお気に入りと称する血統書付きの天才。〉

えりあし

えりあし

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大きな鞄にもこの胸にも収まらないんじゃない?

〰〰〰

あたし あなたと知り合うまで
何をして生きて来たんだろうか?
忘れてしまいそうな位

大好きな場所も涼しい匂いも揺らめく星屑も

紐解く様に少しずつ一緒に知りたい

ひたすらにあなたの方を向いてるこの目は永遠と

心の中で想ってる

口に出して言えないけど

(かばん)

☆〈『大きな鞄にもこの胸にも収まらないんじゃない?』。女子にしか書けない表現。可愛すぎる。オチも最高にキュート。『あたし あなたと知り合うまで何をして生きて来たんだろうか?』という混乱もキュート。紐解くように知りたい、という表現もキュート。ひたすらに、という形容詞もキュート。可憐な心を描かせたら右に出るものはいないとおもわず思ってしまうほどの天才。〉

かばん

かばん

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鼻先をくすぐる春 リンと立つのは空の青い夏

袖を風が過ぎるは秋中 そう気が付けば真横を通る冬

(カブトムシ)

☆〈これまた風のように流動的に、あっという間に駆け抜ける季節の、その儚さを捉えた美しすぎる文章。いわずもがな、だれもが認めるところの名曲。そもそもがまず『カブトムシ』の時点で、彼女の比喩能力はもうデビュー間もないころから特筆すべきものだったと証明される。教科書に載せるべき天才。鴨長明とタメ線の無常観。〉

カブトムシ

カブトムシ

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強めに縛った靴紐解いて 魔法を掛けてみる

久しぶり 両手で抱えたカバン 底にある傷の跡

「自転車を貸して」教室飛び込んであなたに言ったの

言葉は心を動かした

腐りかけそうになってしまう程 本当はただ好きなんだ

赤白青紫黄緑 声を枯らし灼けた頬

忘れない あなたが輝いてるから

(学校)

☆〈『底にある傷の跡』は物理的なものなのか、あるいは。自転車を貸して、という文句の絶妙な青さ。「腐りかけそう」になってしまう程、という比喩や、声を「枯らす」という秋めいた言葉がどことなく寂しげ。効果的にその言葉のあいだに挟まれた赤から緑の色とりどりが、ビタミンカラーというよりも和の色を帯びて、侘しさを醸す。曲調もジャズっぽい。甘みも苦みもとらえたカフェオレ模様の傑作。これぞ青春。この曲を聴きながら登校していた高校時代の日々を思い出す。プルーストに比肩する天才。〉

学校

学校

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 あ~、前奏が良すぎる~!

 

 


北風が耳を冷やしピアスが痛くなっても

あなたと目が合えば上がる毛羽だったハート

秘密ランデブー白い息 暗い空でも見える坂を

目が慣れたら探して あたしの赤い頬から唇

〰〰〰

スカートめくれても許して

駆け抜ける夜は星空のアンカー 手を離さないで

息が切れた体はもうあなたしか見えない

〰〰〰

闇は食べてしまおう 残るは少し近づいた距離だけ

(キスする前に)

☆〈『北風が耳を冷やしピアスが痛くなっても』『毛羽だったハート』といった字面から吹いてくる空気の冷たさ。『星空のアンカー』『赤い頬から唇』という縦横無尽な視線の誘導。aikoは横顔を好むらしい。闇を食べてもなお、近づいた距離は少しだけといういじらしさ、微妙なニュアンスを駆使するあたりはさすがの天才。近づいたから残る距離は少しだけ、でもなく、少し近づいた距離が残るだけ、でもなく、『残るは少し近づいた距離だけ』である。やれやれ。〉

キスする前に

キスする前に

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赤焼けた走馬燈が目を閉じると踊ってる

泡の様に嘘だったと消えたりしないでね

(キスの息)

☆〈声に出して読みたい日本語。赤焼けた走馬灯が踊る?泡のように嘘だった?天才ですね。〉

キスの息

キスの息

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きっと知らない事ばかりだとあなたの指輪に戸惑った

このままだって充分じゃない 言い聞かせる手に爪の跡

(気付かれないように)

☆〈はい、繊細の天才〜。心情描写うますぎだろ。勘弁してくれ。100回泣いた。〉

気付かれないように

気付かれないように

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枯れずに咲いて自惚れ愛して泣き濡れ刻もう

螺旋描いて渦に潜って二人になれたら

(君の隣)

☆〈やはりこれも言葉を音楽として扱うことに卓抜した技術を感じずにはいられない。自惚れ愛して泣き濡れ刻む。鼓膜にタトゥーを入れたくなるほどの淀みなき美の調べ。孤独を知らない精神には絶対書けない歌詞。天才。〉

君の隣

君の隣

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夜も朝も射す光はいつも同じで

確実に過ぎていった毎日

未来を夢見たあの日の僕

今日も今日も今日も 空は晴れ

(キョウモハレ)

☆〈変わらない日常のやるせなさを描くような前半から推察すれば、最後の部分は雨なり曇りなりが適切だと思わせといて、ところがどっこい。晴れている。一本取られたね。山田くん、aikoさんに天才一枚あげて。〉

キョウモハレ

キョウモハレ

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羽が生えたことも深爪した事も

シルバーリングが黒くなった事

帰ってきたら話すね

その前にこの世がなくなっちゃってたら

風になってでもあなたを待ってる

そうやって悲しい日を越えてきた

(キラキラ)

☆〈これは完全に怖い話。羽が生えたことを深爪や指輪の黒くなったこととおなじように語っちゃうあたりヤバい。この世がなくなっちゃうとか、風になってでもとか、冷静に考えると狂気の沙汰。でも1番怖いのは、この怨霊じみた情念をポップな曲調に乗せてヒット曲にしちゃうaiko。ガルシア=マルケスの描くマジックリアリズムと比べても恥ずかしくないレベルの天才。〉


aiko-『キラキラ』(from Live Blu-ray/DVD『ROCKとALOHA』) 

 

 

 

誰にも理解してもらえなくてもいい
あなたが笑えば何故かそれでいい

明日何が起こっても今目の前であった事が本当なら
明日も笑って迎えられる

〰〰〰
鼓動の奥へ連れてってそして確かめて欲しい

そばにいる事を触って解って欲しい

焼き付けた後に目尻で優しく話しかけて

あなたのいない世界にはあたしもいない

(くちびる)

☆〈『あなたのいない世界にはあたしもいない』曲中で何度も繰り返されるこの、ものすごくシンプルでストレートな言葉をaikoが歌にするとき、恋愛はあるべき形へと回帰する。つまり哲学になる。『焼き付けた後に目尻で優しく話しかけて』のフレーズは美の結晶。こんな表現思いつくとかマジ土下座。『誰にも理解してもらえなくてもいい あなたが笑えば何故かそれでいい』というのも、どストレートで胸にささる。というかエグれる。承認欲求に支配されがちな俺のような人間は、なかなかこうは言い切れない。そう思うし、実際言ってみたりもするのだけれど、やはりどこかで疑惑が入りこむ余地を残してしまう。aikoのこの、目の前のだれかに耳元で語りかける言葉を持つことはカリスマの要素であって、偉大な芸術家の要素でもある。『明日何が起こっても今目の前であった事が本当なら 明日も笑って迎えられる』。aikoは時間のもたらすものにあまりにも誠実すぎるがために、迷子になったら、ときとして縛られてしまったり、要望が通らずに膨れ面でその場に立ち止まったまま恨めしく母をじっと睨みつける子どものようないじらしさがある。一方で、常に前を向いて、振り返らずに人生猪突猛進の考えを持った人もいる。紆余曲折を経てその強さにたどり着いた人は本当に素敵だし、深みのあるおおらかな人格者が多い、と思う。でも、俺はaikoの詞に肩入れする。彼女は、きっぱりと断捨離することができないまま過去を引きずって生きる心の鎮痛剤。先生。ウジウジ、とか、無意味、とか、そういった言葉で個人的な葛藤を吹き飛ばしてしまおうとする軽はずみな悪意にあてられてくたびれきった心に潤いをもたらす希望。もはや宗教じみてきた。aikoは一対一で、目の前で、向かいあわせで、歌いかけてくる歌手である。この詞はもちろん差し向かいタイマンの恋愛としてもとらえられるが、角度をすこし変えると、ファンのことを想って書かれたような歌詞にも見える。前アルバムから2年以上の時間を経て発売されたアルバム『時のシルエット』の曲で、プロモーションのために方々で歌われた曲ということもあって、「あなた」に対する我々aikoジャンキーの空想は捗る。甲乙つけがたいラインナップのなかでも、おそらく個人的にはaikoのベストソングのひとつかなと位置づけている曲。メロディーにも震えた。シンガーソングライターの白眉。あなたのいない世界には天才はいない。〉


aiko-『くちびる』music video short version

 音が気持ちいい~!踊ってしまいますよねえ!

 

 

笑顔の空 あなたの様にあたしも大丈夫になりたい 

リンゴの赤 水風船が割れた

こぼれ落ちた水にまぎれ泣いた

(雲は白リンゴは赤)

☆〈楽曲内では金管楽器の奏でる天に伸びるような曲調の明るさにまぎれているが、文字だけにすると切ない一節。太陽を受けて輝く水しぶきがスローモーションで目の先に浮かぶよう。まずタイトルからしてすでに天才。「いつでも雲は白くてリンゴは赤で。君は相変わらず大丈夫なままで。なのに、あたしの心だけはめちゃくちゃで。」とでも言いたげな感じ。これを説明じゃなくアクションで表現するのがaikoの詞。もう映画でも撮ったら?〉

雲は白リンゴは赤

雲は白リンゴは赤

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日焼け止めを綺麗に洗いきれずに

夜中に腕が夏の匂い

〰〰〰

あなたを一番近くで見つめた瞬間

唇はカメラの様にまばたきをした

〰〰〰

はじかれまい日射しにもあなたにも

桃色の汗は夏の匂い

〰〰〰

あたしの体の真ん中自分じゃないみたい

(恋のスーパーボール)

☆〈完全にアダルト。官能。ここからエロスを読み取れない人はまずいないだろう。髭ダンのボーカルも影響を受けたと語っていた、ような気がする曲。どう考えても歌詞がよすぎる。唇とカメラの親和性に気付かされました。あっぱれ。日焼け止めを落としきれなかった腕を夏の匂いと言ってみたり、日射しを弾くのではなくて弾かれまいと言うことによって、夏の日射しとあなたに真っ向勝負を挑む活発な人物像が現れたり。あ~。もはや夏の季語にaikoを登録したいレベルの天才。〉

恋のスーパーボール

恋のスーパーボール

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aiko-『恋のスーパーボール(Bossa ver.)』(from 『夢見る隙間』LIVE会場限定盤『噛めないけどね!CD』)

 ボサノヴァバージョンも素敵!

 

 


今降るこの雨 遠くは晴れている

だからすぐに逢えるね

止めば乾いてそして星が降るから お願い

(恋をしたのは)

☆〈これも本来長い時間を要する変化を見事に素早く描いている。遠くは晴れている、だからすぐに逢えるね。可憐だけど、やはりどことなく狂気を感じるのがaikoの素晴らしいところ。狂気と恋愛をまるきり別口に考えるようなペラペラの感性なら、彼女の言うことを理解できないのもやむなしか。俺はわかってる。あなたは天才です。〉

恋をしたのは

恋をしたのは

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どうしてだ?重くも軽くもない世界

たった一度だけ違った顔を見て以来

ここは無重力で誰に笑いかけてるの?

(今度までには)

☆〈軽くも重くもなく、無重力。ふーん。どういうこと?お手上げですわ。俺のような紙きれリテラシーの凡人にはぜんぜんわかりません。やはりあなたは天才aiko。〉

今度までには

今度までには

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後篇に続く。