アマチュアな日々

原付旅をメインに、本や映画、散歩にゲームなど、その時々の出来事を気ままに記す、という趣向のブログ。やめたくなったら即やめます。

aikoの詞についての過激な賞賛と身勝手な解釈。【後篇】

引き続き、aikoの曲、そのなかでも詞に重きを置いて好き勝手に解釈して褒めに褒める記事を書きます。

興奮のあまりタイプする指が止まりません……!好きなことを好きなように好きなだけまくしたてるオタクイズム、今回も全開でいきたいと思います!

 

※以下に掲載する詞はすべて、aikoの楽曲から引用したフレーズ。タイトルのあいうえお順に上から下へ。俺のiPhoneのメモに写してあったものをそっくりそのままコピペしたものです。

太字=引用したフレーズ。()内=曲のタイトル。☆以降=俺の勝手な感想。

 

 

愛した日

愛した日

 

 

 

いざ、後篇。

 

 

 

 

逆さにした少し気の抜けたサイダー 知らない顔知らない服

〰〰〰

崩れる音聞いてあなたがやって来てくれるのなら

大きな音立てて心を一度無しにしてもいい

(サイダー)

☆〈心を一度無しにしてもいい、という表現すごすぎ。心を/無しにする/一度。心ってなしにできんの?できたとして、二度目ってあるの?『崩れる音聞いてあなたがやって来てくれるなら』というニュアンスに隠された同情や憐れみにすら縋ろうとする本音と、どうにしたって終わりを迎えるしかない、手の施しようがない関係を冷静に俯瞰する眼。逆さにしたサイダーの気が抜けているのも無力感。『知らない顔知らない服』。なるほどなあ。こんなふうに言葉を組み合わせることができたらなあと思う。強炭酸の目が醒めるような天才。〉

サイダー

サイダー

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空の色に負けぬようにとあなたが描く夢が好きだった

ため息は音になり耳に心に刺さる 今でも昨日のことのよう

瞳は雨

上がれば笑顔に会える知らせ

風が袖を抜けあたしを明日へ導く

(4月の雨)

☆〈空の色に負けぬようにと描く夢、という詩。天才。タイトルの4月と相まって『瞳は雨』という表現が季節感を演出する。梅雨から夏へ向かうイメージはポジティブ。感情の鬱屈から、晴れ。上がるという言葉は、雨の終わりとうつむいた瞳が上を向くイメージ。ため息や風という自然な矢印の表現はここにも。立ち止まったり膝が折れてしまったりしても、七転び八起きで進むaikoの強さ。〉

4月の雨

4月の雨

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見つめ合い出逢ったあの日

一緒に帰った黄色の道 時を止めたかった

夏が終わってしまう合図が…

涼しい風と共に全部連れて行った

あなたの前では擦り切れた靴のかかと気にしてばかりで

いつの間にか素直になるのを忘れてしまった

切りすぎた前髪右手で押さえて少し背を向けた

嫌われたくないから

うつむくあたしをからかったあなた

今はそれもあたしの夢の中だけ

(シャッター)

☆〈『一緒に帰った黄色の道』『時を止めたかった』黄色と止まるで信号の赤を連想する→夏が終わる。夏=熱→『涼しい風と共に全部連れて行った』。『擦り切れた靴のかかと気にしてばかりでいつの間にか素直になるのを忘れ』たり、『切りすぎた前髪右手で押さえて少し背を向けた』り、細やかな描写にリアルが宿ることを教えてくれる天才。この曲を一曲目に持ってきたアルバム『彼女』を最初に購入し聴いたことは、aikoに浸かっていくうえでとてもいい入門だった気がする。わかりやすく素晴らしい曲だったし、16才から現在まで聴き続けていくうちにどんどん素晴らしくなるスルメ曲でもある。本当に味がなくならなくて、ビックリしてます。〉

シャッター

シャッター

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黄色い月に真っ赤な星が寄り添う様に

いつ何時もあたしあなたの力になりたい

心なしか元気ない時は匂いで解る

鼻の効く利口な犬にもなってあげる

(白い服黒い服)

☆〈星は星でも、赤い星、というのはaikoの歌詞に頻出するキーワード。月と並ぶ文脈的には赤い恒星、太陽が想像できるし、赤色矮星も想像できる。もったいぶった感じではない曖昧さ・抽象性は詞の解釈に幅が出て受け手も純粋に楽しい。そして、いよいよaiko人智を超えて犬になる。とにかくaikoは五感が効く。ものすごく遠くのものを見つける眼もあれば、耳の感度はもちろん、やたらと匂いにも敏感である。これを天才の資質と言わずして、なんと言うべきか。ウタウイヌは歩けども棒に当たらずどこまでも進む。息の長い天才。〉

 

 


日曜日も☆のリングも22日も青い空も

長袖も家の鍵も笑った目も夢のダンスも

(深海冷蔵庫)

☆〈一気呵成の歌詞。一枚絵に描かれたピカソのような複雑さ。身の回りのものをコルクボードに貼りつけてコラージュにしたら芸術になった、みたいな。それぞれの名詞の完全な意味合いはaiko自身にしかわからない以上、こちらは嬉々としてパズルのように組み立てていける。想像力を遊ばせられる。ありがとうaikoピカソのような、という比喩を用いた以上、こう言う他ないだろう。天才、と。〉

 

 


泣き叫んでみたり初めてにぶつかったり

君の指に巻き付く糸の色になっていたい

逢いたいじゃ足りない あたしといつもの時を刻む針の音に

この心臓重ねて

愛なんて知らない君の本当もわからない

あたしがいつも付けてるキーホルダーは君じゃない

笑った顔が見たい あたしといつもの道の角を曲がって

二つ目の赤で手を繋いで

(信号)

☆〈この記事を書いている今日日現在、近ごろのaikoは糸になって巻かれたり、かとおもえば糸を巻いてあげたり、糸を使った表現がお気に召しているように感じる。『いつもの時を刻む針の音にこの心臓重ねて』などは、陳腐になりがちな表現を見せ方で絶妙に回避していて、その手腕に惚れ惚れ。『君の指に巻きつく糸の』、『色』になっていたいというのが粋。糸はその性質上、どうしても絡みついたり引っ張ったりするイメージがつきまとうため、執着心を匂わせやすい。しかしそれも『あたしがいつも付けてるキーホルダーは君じゃない』という表現によって盲目的な恋愛物語を脱する。これぞaikoサン。キーホルダーという言葉に含まれる絶妙な日常への接触感と、なければ寂しくても必要なものではないし、場合によってはかさんで邪魔になるし、それでもやっぱり可愛いし……みたいな悲喜こもごもの複雑な想い。「あたしに付いて回るキーホルダーが別の誰かではなくて君だったならば、心が手に取るようにわかるだろうに。」とか「君は大量にぶら下がって揺れているあたしのお気に入りのキーホルダーのなかのひとつですらありませんよ。」みたいな、まったく異なるニュアンスで解釈できる。『逢いたいじゃ足りない』。これも「君の口にする逢いたいという言葉だけでは私の心が満足しない」のか「あたしの気持ちを表すのに逢いたいという表現だけでは足りない」のかなど、ダブルミーニングである。事程左様にaikoの言葉は右にも左にも揺れる。糸・キーホルダーという親和性の高いふたつの言葉をさりげなく歌詞のなかに落としこむのも流石。『あたしといつもの道の角を曲がって二つ目の赤で手を繋いで』は表現の巧みさと相まって、大人の秘密の恋愛の観。二つ目の赤でカメラを手に追いかける我々を置いてけぼりにしてフェードアウトしていくのも映画のようで洒落ている。天才。〉

信号

信号

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あなたの丸い爪に射して跳ね返すオレンジの色

(17の月)

☆〈この動詞と形容詞と倒置の活用の巧さ。多くは語るまい。天才。〉

 

 


お皿に残る白い夢を 君の口にいれてごちそうさま

(ストロー)

☆〈これも前述の『信号』に続いてわりと新しめの曲だが、aikoが段々と、いままでは詞のなかに隠していた強さ、怖さを積極体に前面に出してきている印象。詞は詩をさらに濃くしている。切れ味鋭いスラップスティックな表現が天才的にかっこいい。〉

 

 

ストロー

ストロー

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切れた電球は耳元で振れば

小さな音でさようなら

(冷たい噓)

☆〈詩。天才詩人。電球は声ではなく、音で『さようなら』を言う。切れた電球を用いて終わりを比喩するばかりでなく、耳元で振ってみるあたりがaiko節。もう最高。トータルでとても好きな曲。曲もカッコいい。〉

冷たい嘘

冷たい嘘

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適当で変な事言って連れ出してよ

理由は後でいい

夜にあの子のハンドル抜いて引っ掻いたら

間から甘い想い

〰〰〰

一時停止で点滅したあの車と

どっちが先か

道路塞いで勘違いするほど話したら まさか子供になった

(ドライブモード)

☆〈『理由は後でいい』。ここ数年のaikoの書く詞がとても好き。基本的には詞先のaikoが曲先で書いた曲、とのこと。『夜にあの子のハンドル抜いて引っ掻いたら間から甘い想い』。二億点。夜の暗闇のあちこちからカラフルな音符が隙間を縫って飛び出してくる。『点滅したあの車』。ライトやウィンカーが点滅するならまだしも、意味はおなじでも、言葉のうえで車が点滅するとなればたちまちに魔法を帯びる。『道路塞いで勘違いするほど話し』たり、子どもじみた発想の果てに、実際に子どもになっちゃうくだりとか稲垣足穂みたいで超クール。どうしたらこんな発想が生まれるの?もちろん天才。ピアノが歌詞の裏で踊ってるのも最高。大好きな曲。〉

ドライブモード

ドライブモード

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嘆きのキスに気付いてただろう

知っていても認めたくない優しい目の奥

(嘆きのキス)

☆〈まず、『嘆きのキス』という言葉は凡人には出ません。俺ならまず逆立ちしたまま世界を100周したって見つからないだろうなあ。言葉も唇も冷たい。わかってるけど、わかっていながらも、可能性を捨てきれずに目の奥を窺う。唯一あたたかみのある優しさの曖昧さがここでも一筋縄ではいかせない。「言うても本心の底の底は別のところにあるんでしょ?あるに決まってるよね。」と、最後の最後まで期待してしまう脆さも詩にすれば芸術。こういうところがaikoは強い。天才。〉

嘆きのキス

嘆きのキス

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君がスニーカー履くと必ず雨が降るね

(ハナガサイタ)

☆〈曲頭の歌詞。最高に面白い小説の出だし感。引きがある。ここから始まる物語、絶対先が気になるもの。俺が編集者ならまず出版させる。天才作家現わる!と銘打ってね。〉

ハナガサイタ

ハナガサイタ

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三角の目をした羽ある天使が恋の知らせを聞いて

右腕に止まって目くばせをして

「疲れてるんならやめれば?」

〰〰〰

夏の星座にぶらさがって上から花火を見下ろして
涙を落として火を消した

 

そろったつま先くずれた砂山 かじったリンゴの跡に
残るものは思い出のかけら
少しつめたい風が足もとを通る頃は
笑い声たくさんあげたい

 

三角の耳した羽ある天使は恋のため息聞いて
目を丸くしたあたしを指さし
「一度や二度は転んでみれば」

〰〰〰

赤や緑の菊の花びら 指さして思う事は
ただ1つだけ そう1つだけど
「疲れてるんならやめれば…」
花火は消えない 涙も枯れない

(花火)

☆〈およそ20年前、デビュー後三作目にしてこれを書いちゃうaiko。彼女の天使はイジワルである。しかしイジワルというか、トリックスター的な存在は物語の進行においてしばしば重要な役割を担う。三角の目をした天使と三角の耳した天使。「疲れてるんならやめれば?」という天使と、かたや「一度や二度は転んでみれば」という天使。文脈が曖昧なので断定はむずかしいが、そのふたつのベクトルは反対に働くように思える。トリックスターならば姿を変えるのもたやすかろう。ジキルとハイド的なものと言ってもいい。そもそもが、これはすべて『眠りにつくかつかないかシーツの中の瞬間』の物語であり、だからこそ天使をはじめ、星座にぶらさがって上から花火を見下ろすなどの、語られる超常現象はすべてaikoだけのものである。それにしても『涙を落として火を消した』という表現はたいへん詩的。しかしこの一区切りついたような一幕も、最後には『花火は消えない 涙も枯れない』となることで、結局なんどでもやり直すことになる不毛な堂々巡りエンドに着地する。ドラッグオンドラグーンかよ。しかしそう考えると天使は、あるいは『1mmだって忘れない』に代表されるような言葉は、彼女を解放してあげることもなく、やはりイジワルだ。なんらかの理由で夏の頃に花火を見ることのできない彼女、見ることのなかった花火や見れたはずの彼女が、幽体離脱をして過去も現在と未来に閃く一瞬の花火を整理のつかない心で眺めている。切ない。天才は孤独である。楽器の音色が心情を語っている。もちろん、aikoは文学者ではなくてシンガーソングライターなわけで。結局のところ、全貌は曲を聴くことでしか知り得ない。だから聴きましょう。聴いて、想像して、あれこれ好き勝手に解釈しましょう。ハッピーエンドともバッドエンドともつかない魅力がaikoの物語にはある。我々が選択することができる。優しい世界なのです。それを創るために作者は痛む。傷のなかに手を突っこんでほじくり返す。ありがとうaiko。ありがとうアーティスト。〉

花火

花火

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明日最後を遂げるもの明日始まり築くもの

時が過ぎて花を付けたあなたの小さな心の中に

一体何を残すだろう?

“Happy Birthday to You"

しっかりと立って歩いてね よろめき掴んだ手こそが

あなたを助けてあなたが愛する人

瞳に捉えた光が眩しい日は静かにそっと目を閉じて

昔を紐解いてみればいい 確かなあの日

小さな手のひらに無限の愛を強く握って笑った

あなたがいるから大丈夫

健やかに育ったあなたの真っ白なうなじに

いつぞや誰かがキスをする

そしていつかは必ず訪れる

胸を体を頭を心をもがれるような

別れの日も来る

そんな時にもきっと愛する人がそばにいるでしょう

(瞳)

☆〈これはもうすでに人類讃歌、人生賛歌の域。結局、こういった人生観にaikoの詞は裏打ちされているから、痛くて、優しくて、揺らぎがあって、深いのだ。聴くたび泣きそうになる。というか百発百中で泣く。恋愛を人生と切り離すことを軽薄だと俺が思う理由は、ここにある。天才という言葉は今回、あえてつかいません。〉

瞳

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逢わないうちに少し痩せたみたい

そのブルーの半袖いい感じね

あの子とあたしの愛の巣に帰ってきたら
いろんな事想って涙が出る
靴下もズボンも何もかもなくなってて
ベッドに微かなあの子の匂い残ってる

〰〰〰

買い物に行ったら知らないうちに
あの子に似合うシャツ探してる
ふとした時に気付く虚しさとため息
誰か早く止めてよ

(ひまわりになったら)

 ☆〈『半袖』『靴下』『ズボン』『シャツ』。衣服に時間と気持ちの変遷を託して物語を描く。ファッションセンス抜群のaikoがこの詞を描くとき、頭のなかに「彼」に似合いそうな服と、着ていた服と、着ていた服に合わせたらいい感じになりそうな服と、想像力が発達しすぎているがゆえに人一倍の苦しみがあるだろうなとこっちまでため息をつきたくなる。『ベッド』を含め、布類から発するかすかな特有の匂いがこっちまで漂ってきそう。『そのブルーの半袖いい感じね』というのも切なくて、前回会ってから一週間を経ての言葉か、一年を経ての言葉かによっても意味合いが全然違う。この場合はおそらく後者。悲しい笑顔が詞のむこうに透けて見える。インディーズ時代の名曲。aikoファン、aikoジャンキーはきっと大好きに違いないでしょう。ライブでこの曲を歌いながら泣いていたaikoの姿は忘れられん。〉

 

 

隣に座って声を聞いた
何が好きなの?何が嫌いなの?
今 こっちを向いて笑ったの?
あたしに向かって笑ったの?

〰〰〰
夢中になる前に解って良かった

あと5分そんな素振りをされたなら

きっと気付いただろう 怖くなってただろう

後に戻れない 刺さった想いに

あたしの背中越しに見てた
その目の行き先を 香るあの子の
甘い瞳を見ていたの?
甘い仕草を見ていたの?

これは夢か痛い今なのか 心震えてく嘘も伝って
あなたはあたしの時を止めた 帰りの道が見えない

一緒に撮った写真の中に夢見る二人は写っていたのね
後ろに立ってる観覧車に本当は乗りたかった...

(二人)

 ☆〈『二人』というタイトルがついたこの曲の登場人物は三人。あたしとあなたの視線は交わらずに、むしろ、あなたとあの子の『二人』で物語は展開される。『今 こっちを向いて笑ったの?あたしに向かって笑ったの?』→『あの子の甘い瞳を見ていたの?甘い仕草を見ていたの?』。『これは夢か痛い今なのか』は、【痛い夢と今】ならまだしも、【夢と痛い今】では隔たりがおおきくて、おおきいがゆえに、混同しそうにないものを混同するほどに乱れる心を表す。時を止められて、置いてけぼりをくう可哀想なあたしは、だけどそもそもあなたとはどういう関係にあるのか?お人形遊びをするあたしの姿が想像されてしまうのは、俺だけだろうか。あなたから見るあたしとの距離は、最初から最後までなにひとつ変わっていない。そして遊園地で撮った写真のなかに写っている『夢見る二人』とは、過去のあたしたちなのか、知らぬうちに水面下で繋がっていたあなたとあの子なのか。謎解きのような曲。観察眼と想像力が鋭い人はひとり妄想を膨らませて一喜一憂コロコロと気分を転がしては、傷ついたり、喜んだりするもので、多様性が尊重される見方が前へ前へと進み、その点素晴らしい時代の流れのなかにある昨今、感情のダイバーシティを知るためにも、aikoの詞はいい教材となるだろう。シングルは2008年に発売。時代精神を先取りした天才。〉

二人

二人

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知らない間にあなたにもらった

何度も手を洗うクセ 空見上げる事

想いが動いてゆく音を駆け抜ける時の中で聞いた

(星のない世界)

〈『想いが動いてゆく音』を『駆け抜ける時の中で聞いた』。たとえば静かな町の風のない深夜、ツーリングに出かけたとしましょう。たしかに赤信号で止まっているうちは音がどこにもありません。しかしいざ走り出すと、びゅうびゅうと風の音が聞こえます。つまり、彼女が動き出したからこそ、想いは動き出したのです。はい。『あなたにもらった』という表現は、「あなたから移った」と表現するのでは、言葉のむこうに透ける表情や感情に差が生まれる。そしてもらったものがなにかと言えば、『何度も手を洗うクセ』ときた。この描写力。言葉の微妙なニュアンスをとらえて振り回す天才。〉

星のない世界

星のない世界

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それは偶然で あの日雨が降ったから
君に逢った あの日雨が降ったから

青の水平線に晴れた空が 落としていったもの
鮮やかな夕日を見て

〰〰〰
赤い帽子を風が弾いてくるり宙返り

目指す空の下 色違いの指先

全部君にあげるよ さぁ目を閉じて

〰〰〰

背中の水着の跡もう一度焼き直そうか

小さな屋根の下で寄り添ったままいようか

(帽子と水着と水平線)

☆〈偶然と君に逢ったこと。これらは同じこととも取れるし、異なることとも取れる。「雨の日、君に逢った。それは偶然だった。」のか「その偶然は雨の日に起きた。そして君に逢った日も、偶然、雨が降っていた。」なのか。想像して楽しいaikoの詞のお時間です。続く歌詞ではすでに空は晴れていて、水平線に夕日が落ちる。鮮やかなそれを「見た」のではなく、『見て』なのも、二重の意味を持って楽しい。『赤い』帽子とすることで、ここを入り口に鮮やかな世界が広がる。『くるり』宙返りとすることで、世界がより鮮明に動き出す。空の青、色違いの指先のキャンディー色。それらが君に集約する。夏と浮き足立つ心の雑多なお祭り感と、それらぜんぶをあげてもいい熱視線の先の唯一無二の君との間を揺れる心情が大忙し。目を閉じてもまぶたのなかで弾けるカラフルな色彩が見えれば、そこはもうaikoの世界。背中の水着の跡を焼き直すのと、屋根の下で寄り添った「まま」でいるのと。「まま」ということは、すでにその状態にあって、寄り添いながら、脳裏に『背中の水着の跡 もう一度焼き直そうか』と考えている。寄り添っている状況が最高の状態であれば、そこを離れるなんてことはできないのではないか?水着の跡を焼くというのは、彼のために、とも解釈できなくはないが、あえて、自分のため/あるいはまだ見ぬだれかのために、ひとり浜に出ていくことを考えていると想像したい。いずれにしても、落ちる影も濃く明るい夏を曖昧さの楽園としてとらえ連れてくるaikoは天才ということで、どうでしょう。ご査収ください。〉

帽子と水着と水平線

帽子と水着と水平線

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育ってく小さな心を見落とさないでね

少しならこぼしていいけど

スカート揺れる光の中の

あの日に決して恥じない様に

(三国駅)

☆〈俺は、女性の一人称で描かれた物語が好きである。なぜなら、女性は俺にとっては永遠の謎だし、いくら想像力を働せようとも、精神的にも器官的な意味でも、完全に女性を体験することはできないから。だから、女性であることに強い自覚のある女性が描く心の風景を見聞きすると、ハッとさせられるようなことが度々ある。『スカート揺れる光の中のあの日』とは?制服を着ていた学生時代とかで合ってるのか?この一文があるだけで、思考はひどく頼りないものとなる。「俺ごときがaikoの詞を解釈しようなんざ愚の骨頂。なんておこがましい奴なんだ……。」ぜんぶ削除したい衝動に駆られるが、表現の自由にかこつけてこのままやらせていただきましょう。しかし『こぼす』という言葉が『スカート』のまえに配置されてるのは両者の親和性に自然な流れで、やっぱり巧い。天才。こぼれるのが、心→スカート、上→下の位置関係になっているのも、スムーズに脳内描写を働かせやすい。とにかく、俺にも少女の心の純粋さみたいなものが伝わってくるわけで、一方でなにもわかっていないような気にもさせられるわけで、人の心の複雑怪奇を忘れないためにも教訓として心に留めておきたい傑作。〉

三国駅

三国駅

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そばにいてね 年を重ね 空を見た時

きっと凄く幸せなの あなたとあたし

あぁ また…涙が出る

(向かいあわせ)

☆〈多幸感を表すときの模範解答。うますぎ。そして影に潜む仄暗い不安も、語りかけるように紡がれる言葉の節々に見える。だから涙の意味も色彩に富むし、また、隣同士ではなく、向かいあわせというタイトルが想像を掻き立てる。歳を重ねてもどうせ天才。〉

向かいあわせ

向かいあわせ

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いつの間に伸びた癖のある後ろ髪

緩やかに跳ねてどこに飛んで行った?

振り返るのは僕 前を向くのは君

重なった道で何度も確かめたのに

見違える程奇麗にならないで 陽射しの強い日のまつげの影
少しかすれた声を触った 全てを包み込んだ僕の腕

(もっと)

☆〈詩的。後ろ髪を引かれる、じゃないけど、『いつの間に伸びた癖のある後ろ髪』に沿って視線を追いかけ、『緩やかに跳ねてどこに飛んで行った?』と若干言い訳がましく『振り返る』僕を想像する。すると、君は前を向いていて、それは自明の理で、そのことが苦しい。わかるわかるわかる。『かすれた声を触った』というのはいかにもaiko節。触った→包み込む、と点から面へと変化していく言葉の展開は天才。〉

もっと

もっと

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細い手首に巻いた大切な赤いひも
願いが叶って切れる日を
あたし気が付くといつも祈ってた

〰〰〰
あたしはあなたじゃないから全てを同じように感じられないからこそ

隣で笑っていたいの 悲しくなった時は沢山泣いてもいいけど

ずっとそこにいないで うずくまったりしないで

一緒に見たいの 戻れない明日

(戻れない明日)

☆〈『戻れない明日』というタイトルのしなやかさ。ここでもaikoは時間の正しさを飛び越える。『ずっとそこにいないで うずくまったりしないで』という強い叱咤は、あなたよりもあたしに向いている。『あたし気がつくといつも祈ってた』の『祈る』と『うずくまる』は対応している。aikoは書く時期によって主人公の心の状況が変わるイメージがある(一例として、前述『嘆きのキス』と、この『戻れない明日』はアルバム『BABY』に収録されている)のだが、『一緒に見たいの 戻れない明日を』で終わる詞は、仮にもし自己暗示のようなものだとしたら、あなたに追いすがろうとする必死の姿が見えて、なんだか切ない。さらに仮の話、というか最初から最後までずっと仮の話だが、もしaikoのその時その時の実体験に詞が影響されているのなら、創作にまつわるインプット・アウトプットの関係に体験が落とし込まれていることになって、やはりいい意味でしたたかというか、冷静な部分が残っているなと思う。テイラー・スウィフトもそのような「作詞の方法」を槍玉にあげられて批判されていたが、やはり恋愛ソングライターの天才は同じ道を行くのかもしれない。〉

戻れない明日

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夏の雲が作るグランドに引いた白線の様な石灰舞う瞬間

あなたの斜め後ろにいた時いつも想い描いた強く淡い明日

〰〰〰

冬の雲は作る 細く切ない生糸で編んだ薄いストールの波

〰〰〰

声は散る空に あたしを残して
桜色の花火
朱色のコート

(約束)

☆〈なんだかこういった類の詞は類推邪推解釈解説すべてが野暮だよな、と感じる。嫌になってしまうね。ひとことだけ。天才。〉

約束

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あなたとあたしは似てるから そうやってね

何でもかんでも飲み込んで

カラスの様に歌い散らかすのでしょう

辛い花も甘い花も飲み込んでは

青い歯で食べて唇からさ 笑い話にするんでしょうね

(遊園地)

☆〈『カラスの様に歌い散らかす』。歌を歌うことを否定的に見ているような、不機嫌さ。『辛い花も甘い花も飲み込んでは 青い歯で食べて唇からさ 笑い話にするんでしょうね』。飲み込む→歯→唇、は本来、唇→歯→飲み込む、と順番を辿るものであって、これらの位置の逆転が歌を創る表現者の苦悩と皮肉を表している。前述『戻れない明日』で取り上げた創作時期の問題に焦点を当てると、個人から個人への感情がむき出しになっているように思えるこの曲が収録されるアルバム『泡のような愛だった』は、全体にどことなく剣呑な感じのする作品かもしれない。アルバム収録曲『透明ドロップ』の『仕事だって嘘ついたね あの時手を繋いだよね』という歌詞なんかは、さまざまな憶測を呼んだ。まあ憶測はともかく、明確なことはひとつあって、それは、aikoは天才であるということ。〉

遊園地

遊園地

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あの日偶然助手席に乗った

特別に感じたシートの熱 右肩がくすぐったくて

(横顔)

☆〈『横顔』というaikoの詞に頻出する言葉をタイトルに冠して書かれたこの曲のなかで、助手席の情景を引っ張ってくるのは流石のひとこと。くすぐったさに恋愛初期の距離感と右肩にかかるシートベルトの感覚をピックアップして重ねる技術。天才。aikoとドライブに行ける人生どこですか?〉

横顔

横顔

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全く以ってあなたの話す全てが英語の様で解らない

あたしに何かを伝える手段をはき違えてる

右も左も今はないはっきりしないゆるいライン

横着者だとあなたはあたしを掃いてしまうの?

(ライン)

☆〈『全く以ってあなたの話す全てが英語の様で解らない あたしに何かを伝える手段をはき違えてる』。英語のようで解らない、というのがいい。これが「ベンガル語のようでわからない」だと話が違う。英語という、義務教育レベルで浸透している言語を「全く以ってわからない」のだからいいのである。つまり、わからないことの過失割合が10:0とは言い切れない感じがいい、ということ。『はっきりしないゆるいライン』は全曲をぶち抜くキーワード。横着者の意味がわからなくて調べた思い出。かっこいいす。ジーニアス。〉

ライン

ライン

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あなたが宅急便で送った凍ったままの甘いハートは

今ゆっくり解凍して抱きしめているところ

(冷凍便)

☆〈『あなたが宅急便で送った凍ったままの甘いハート』を、解凍して抱きしめる。これは「解凍したものを抱きしめている」のか、「抱きしめて腕の中で解凍したものを引き続き抱きしめたまま」なのか、いずれにせよ「届いたよ!今な、ちょうど解凍し終わってん!甘くて美味しいわー!ほんまにありがとう!」とニヤニヤしながらメールを打って送信するaikoを想像して俺もニヤニヤしています。幸せをありがとうaiko。あ、宅急便が来た。だれからだろうか。ふむふむ。送り主は……天才?こいつは、嘘だろ!オーマイガー!もしかしてこれってaik)

冷凍便

冷凍便

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こんなに熱くなった心「ぎゅう」っとしぼって

もっと近くに寄っていたいだけで

一か八かのゲームみたいなこの道を

寄り添って今はただ歩いてみたい

そんな気持ちよ

〰〰〰

「生まれた時からずっとあなたに抱きしめて欲しかったの」

ずっとずっといつだって今も抱きしめて欲しい」

(ロージー)

☆〈太宰治は『斜陽』のなかで『人間は、恋と革命のために生まれてきたのだ。』と書いた。『一か八かのゲームみたいなこの道』という表現は面白くて、一か八か、成功か死か、のような切羽詰まった革命的な部分と、ゲームみたいな、という、どこか気の抜けた部分が一文のなかに同居している。aikoの世界において恋と革命とは同義である。意味わかります?俺はわかりません。とにかく『こんなに熱くなった心「ぎゅう」っとしぼって もっと近くに寄っていたいだけで』、彼女は恋路を歩きだせる。ひたむきなようで、そこはかとない捨て鉢感。複雑な道だとわかっていながら、ええいままよ!とまっすぐに一歩を歩みだすのだ。がんばれ、がんばれ!『生まれた時からずっとあなたに抱きしめて欲しかったの』は、もう極地。生まれた時からずっと、という非現実的な文句は詩となり、現実的な言葉では届かない奥まったところにある感情を見事に掻き出している。そして運命として定められているようなあなたもはじめは遠くにいたのが、『ずっとずっといつだって今も抱きしめて欲しい』と時を経て今目の前の瞬間まで迫ってくる。天才でいいですか?いいですね。〉

ロージー

ロージー

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以上。

駆け足になってしまうな〜と思っていたものが、気づけばえらい長さになってしまった。

これでもだいぶ削ったほうですが、まあこのへんで一区切りいれておきたいと思います。

 

 

 

最後に。

 

 

 

aiko様、関係者の皆様、ファンの皆様。あれこれ好き勝手言ってすみませんでした!

だいぶ的外れなことを言っているかと思われますので、もしも当記事お見かけの際はご指導ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願いします。 

 

 

 

はー、楽しかった。

 

 

 


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